久しぶりにスゴく面白い本に連続で出会った。

まずは稲垣栄洋の『弱者の戦略』
弱者の戦略 (新潮選書)
稲垣 栄洋
新潮社
2014-06-27


そして大山卓也の『ナタリーってこうなってたのか』だ。


たまたま同時期に読んでいて気づいたんだけど、この2冊は言っていることが奇妙に一致している。

『弱者の戦略』では、「ライオンはシマウマより強いのに、なぜライオンの方が絶滅を心配されているのか?」という問いかけから、そもそも強いとは何かを考えさせ、生物界では「強い者が勝つのではない。勝った者が強いのである」という鉄則を紹介する。

生物界の弱者の戦略は「スピード」と「多様性」がキモとなる。スピードは、繁殖する数の多さで、多様性は、食べ物にありつける、様々な小さなポジションを狙うことだ。
反対に強者は、「少数だが強い個体」が「もっとも美味しく大きなポジション」をとる。
名称未設定 2

面白いのは、弱者と強者、どっちの戦略が良いかは、環境がどれほど変化するか(攪乱の程度)によって決まる(コネルの中程度攪乱仮説と言うらしい)。環境が不確定だと弱者が栄え、安定すると強者が常に勝つ。ここまでは分かる方も多いだろうが、本書が面白いのは、その具体的な方法を沢山の生物を例示しながら解説している所だ。そして不思議と、ナタリーがとっている方法と近いものがある。

例えばナタリーでは、一つ一つは小さな記事をスピーディに、様々なニッチな分野で日々量産し、通常の有名雑誌のようなスペシャル特集などはやらないという。これは弱者が多種を大量生産し、強者は少数精鋭の強い個体で勝負する、という事と似ている。

生物界では、安定した環境で強者はより巨大化、長命化していくが、それは変化に弱くなっていく事も意味し、かつての恐竜のように、環境が激変するとあっさり死滅してしまう。その場合、小さく大量に繁殖し、様々な場所で変化しつづけた弱者が生き残る。

これを、メディアを取り巻く環境に例えれば、インターネットがなかった状況に比べると、現在は非常に不確定な、先が読みにくい時代にいると実感する人は多いだろう。この場合、何が当たるかはコントロールが効きにくくなる。この場合、弱者の戦略が優位になる。

そして『ナタリーってこうなってたのか』では、サイトの方針である「全部やる」つまり、あらゆる音楽情報をフラットに扱うことを宣言し、1日100本の記事をアップしている。これは「弱者の戦略」で言えば、雑草のようにどんな場所でも種を撒き散らすことでどれかが生き残る(読者に引っかかる)事に通じる。本の次のくだりで、それが意図的であることがよくわかる。

「最近のナタリーは薄くなったんじゃない?」という声を目にすることがあるが、「最初から薄いんだよ!」と声を大にして言いたい。または全方位に向けてまんべんなく“濃い”存在でありたいと願っている。
(中略)
「君たちこういうの好きでしょ」とか「これをレコメンドするおれのセンスすごいでしょ」とか、そんな上から目線の自意識は20世紀に置いてくればいい。送り手の側は自分が持てるすべてを提示して、そこから先の判断は読者に委ねてしまえばいい。結果としてそこにあるのは玉石混交の雑多な情報かもしれないが、読者はその中から自分にとっての宝をつかみ取ってくれるはず。それがウェブという無限の荒野における情報流通の正しい姿だし、たぶんそれが読者を信じるということなんだと思う」

「無限の荒野」という表現から、ネットを非常に不確定な環境だと見ていると思うが、その環境に最適化した結果、不思議と弱者の戦略と同じ事をしているのだ。

また、「弱者の戦略」で面白いのは、ナンバー1を目指すべきか、オンリー1を追求するべきか?というよくある問いに、あっさり答えをだしている所だ。生物界では、ナンバー1しか生き残れない。なので、自分の得意な事を活かしたオンリー1なポジションをまず得て、そこで競争してナンバー1になるという手順をとる。

ナンバー1かオンリー1か?という問いかけが混乱するのは、どちらも自分の能力の話だと思うからだ。実際には、オンリー1とはポジション、市場の事なので得意な事を活かした方が良いし、ナンバー1とは能力の事なので、好きな事を活かした方が長期的には有利なのだ。

そしてナタリーでは、大山自身、「好きなことよりも得意なことを仕事にした方が良い」と言い、ナタリーは「たまたま誰もやってないから」作ったとドライに発言している。そして、たまたま好きなことと得意なことが一致したのだと。まさに弱者の発想だ。

ナタリーで何よりも大切にしているのは、「自分たちで記事を書く」ことだそうだ。当たり前のようだが、ウェブメディアでは他人の記事で相撲をとる事が普通になっている。
僭越ならが、私もくだらない記事を沢山かいているので、共感する事も多い。

最近出版した「広告なのにシェアされるコンテンツマーケティング入門」では、ネットでオリジナル記事を書く方法を書いたのでぜひ合わせて読んで欲しい。(PR)
本の発売に合わせ「コンテンツマーケティング実践講座(9月16日〜17日)」も開催する。



最後に、「弱者の戦略」のあとがきに書かれた
「一番強い者は、自分の弱さを忘れない者だ」という言葉は深い。

というのは、弱さを忘れたとたん、生物は変化を忘れ、強さを求めてひたすら巨大化していき、環境が変化すると死滅するからだ。その結果、実は弱い生物が生き残っている。

「最も強い者が生き残るのではなく、最も賢い者が生き延びるのでもない。唯一生き残るのは、変化できる者である」というダーウィンの言葉が自然と思い浮かぶ。

・「弱者の法則
・「ナタリーってこうなってたのか
・そして「広告なのにシェアされるコンテンツマーケティング入門」(PR)

ぜひ読んでみてください。